Club Interview vol.011 馬術部 杉本 英駿(すぎもと ひでとし)さん 総合政策学部

部員数9名。来年で創部半世紀を迎えるクラブ。馬の世話には、365日、休みはない。まるで馬と共に暮らしているような生活の中で、言葉ではない繊細なやり取りを行い、馬術の技術を磨く。馬と接する特別な時間が、自らの様々な意識を向上させる。 馬と過ごす時間は、私たちの成長の時間。

01 学生主体で、馬の世話から出場大会の選択まで行う。

馬術部について教えてください。

1964年(昭和39年)に創部され、来年には創部50年を迎えます。部員は9名、馬は4頭です。学生自身が主体となって、馬の管理、練習の内容、出場する大会の選択などを行っています。監督・コーチは、日頃のアドバイス・サポートや、大会に出場するメンバーの選出などをしてくれています。

活動内容を教えてください。

年間の大会スケジュールとしては、5月に愛知学生トライアル競技会、6月に中部学生自馬競技大会と中部学生馬術選手権大会、11月に全日本学生馬術競技会、12・3月に愛知学生馬術競技会があります。これに加えて、中京競馬場で大会が行われる際に、随時アルバイトも行っています。

自馬競技とは何ですか?

その名の通り、各校それぞれの擁する馬を使用した競技です。自馬に乗る中部学生自馬競技大会を勝ち抜くと、11月の貸与馬を用いた全日本学生馬術競技会に出場できます。愛知学院大学の馬術部は、個人の部に限っては高い頻度で全国大会出場を果たしています。そろそろ団体戦でも出場したいですね。

競技の内容についてお聞きしてもいいでしょうか。

学生馬術の種目は、馬場馬術、障害馬術、総合馬術の3つです。馬場馬術は、定型の馬場内で、定められた場所と順序に従って演技を行い、正確さや美しさを競います。障害馬術は、高さや幅の異なる数種の障害物が様々な間隔・向きで配置されたコースを、規定時間内で走行します。総合馬術は、3日間をかけて馬場馬術、野外騎乗、障害馬術を実施の3種目に挑み、総合得点で順位を競う競技です。

02 馬と共に生活する時間から、学ぶ。

日頃はどんな活動を行っていますか?

活動自体は、土日も含めて毎日行っています。平日は、講義が終わる17時頃から開始し、20時頃に終わります。土日は9時頃に集合して、全ての馬を用いた練習を昼まで実施。そこからはフリータイムとして、各々が自由に、練習や作業に時間を使います。馬は動物ですから世話が必要なので、馬術部には基本的に365日ずっと休みはありません。ただ、1週間のうちで1日だけ"馬に乗らない日"を設けています。馬に乗らずに過ごすことで、馬を休ませるのです。

馬の世話は、誰が、どれくらいの頻度で行うのですか?

馬に餌をやる時間は、朝(6時半頃)・昼(12時から13時)・夕方(19時半以降※土日は17時半頃)・夜(22時頃)の4回です。部活動中でみんなが集まっている平日の夕方以外は、当番を決めて担当しています。まぁ、土日もほとんどの場合は、多くの部員がそろっていますが(笑)。

馬中心の生活、という感じですね。馬は何頭いるのですか?

現在、4頭います。それぞれハミング、ヴァリウス、パイン、クリリンという名前が付いています。実は少し前に1頭亡くなったんです。突然調子が悪くなって、獣医を呼んだら「ちょっと危ないね…」と言われました。みんなで泊まり込みをして看病したのですが、ダメでした。とても悲しかったです。

大変でしたね。

僕たちにとって馬はパートナーです。一緒に生活して、ともに成長している感覚があります。『人馬一体』という言葉がありますが、文字通り、馬術は、馬と一つになって初めてできる競技だと思います。ただ、馬は生き物です。その日、その時によって気分も変わり、ストレスも感じるのです。

それでも、自らの手足のように扱わなければいけない。

とても難しいですね。馬の操作は、ほとんど感覚が全てです。手綱を握る力をちょっと緩めただけで、馬の動きが驚くほど変わったりします。今でも忘れられないのは、大会の障害馬術競技で初めて障害物を全てクリアしてゴールできた時のこと。言葉では表しにくいのですが、感覚的に「これだ!」と思える動作を行った瞬間、僕と馬は障害物を飛び越えることができました。

上達するのはなかなか難しそうですね。

偉そうなことは言えませんが、繊細なやり取りを、何度も何度も繰り返して、皆、上達していくのだと思います。四六時中、一緒にいることも、馬との微妙なコミュニケーションを取るためのプロセスではないでしょうか。褒める時は、首筋をぽんぽん叩くように愛撫して気持ちを伝え、叱る時は、乗馬中であればムチで叩いたり足の内側で蹴ったりして伝えます。そうして、自分の気持ちを伝える努力をしながら、いつのまにか、いろんなことを学ばせてもらっている気もしています。

03 乗馬未経験でも大丈夫。大切なのは、続けること。

杉本さんが馬術部に入部したきっかけを教えてください。

いつものように駐輪場に自転車を駐めて、校舎に向かって歩き出した時でした。ふと、走っている馬の姿が目に飛び込んできました。駐輪場はこの練習場の近くにあるのですが、不思議なことにそれまでは気付かなかったんです。「大学に馬がいるのか…」と大きな衝撃を受けました。とても興味が沸いて、早速、話を聞きにいったのです。

もともと馬術の経験はあったのですか?

全くありませんでした(笑)。乗馬の経験もなかったし、もちろん、馬の飼育をしたこともありませんでした。でも、大学ではここでしか体験できないようなことをしたいと考えていたので、僕にとって馬術部は、まさに求めていた部活だったのです。

未経験者の方は、部内に何人いるのですか?

現在、全くの未経験からスタートしている部員は、僕を含めて2人います。加えて、3年生メンバーの2人は、小学生の頃に乗馬クラブで、ほんの少し習っていた程度だと聞いています。残りのメンバーは経験者です。

未経験でも大丈夫ということですね。

きっと大丈夫です。OBの中には、大学から馬術を始めて、全日本学生馬術競技会に何度も出場した先輩がいました。その先輩は、今、なんとJRAで働いているんです。もちろん、相当努力されたのだとは、思います。

最後に高校生へメッセージをください。

馬術部に向いているのは、運動神経ではなく、努力し続ける人のように思います。 または、諦めない人。 高校にはあまりなく珍しい部活なので、実は、4月頃には入部希望の方は何名か来てくれるんです。 ただ、休みなく馬の面倒を見ないといけない過酷な状況に直面すると、身を引く人も多いです。 でも、何でもそうかもしれませんが、続けていると見えてくる楽しさや喜びがあり、結果も付いてくるのではと思います。

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取材を終えて

馬術部と聞いて、華麗に演技する姿が最初に頭に浮かびました。しかし、取材して見えてきたのは、華やかさの舞台裏にある奥深さです。馬という生き物と共に活動する競技であるゆえに、365日休みなく世話が求められ、その中で、言葉ではないコミュニケーションが育まれていく。ペットでもなく、道具でもない。パートナーであり、世話をする相手でもある馬とつながりを築く時間。大学時代という、自分次第で時間の価値を生み出せる期間に馬術部という生活を選ぶことは、自分を見つめる意味でとても意義のあることだと感じました。興味深い話を、本当にありがとうございました。