臨床心理士の資格をもったスクールカウンセラーをめざして

加古 恵里菜(かこ えりな)さん 心身科学部心理学科 3年生

愛知学院大学 心身科学部 心理学科に進学した理由を教えてください。

もともとスクールカウンセラーをめざしていて、臨床心理士になりたいと考えていました。そのことを視野に入れて進学先を3つの大学に絞り込み無事合格できたのですが、1つは、女子大だったので、男女共学の方が様々なことが学べると思い選択から外しました。また、臨床心理士になるには、日本臨床心理士資格認定協会指定の大学院へ進学する必要があり、大学卒業後のことを考えると「指定大学院のある愛知学院大学が一番良い」と思い選択しました。

(参照)
愛知学院大学 大学院 心理科学研究科
愛知学院大学 大学院 心身科学研究科 心理学専攻 臨床心理士コースは制度発足の初年度に許可された第一種指定大学院。愛知学院大学 心身科学部心理学科のほとんどの教員スタッフはこの大学院も担当しているので、臨床の最前線に直結した教育を受けることができます。

スクールカウンセラーになりたいと思ったのは、なぜでしょうか?

小・中学生の時に周囲でいじめがありました。小学生の時は、周りの雰囲気に流されて何もできませんでした。中学生の時は、私なりに「なんとかしてあげなきゃ」と思い、先生にも相談しました。その際に「悩みをもった学生が学校内で相談できる人がいると良いなあ」と思ったのがきっかけです。

大学へ来ての印象はどうでしたか?

想像していたより、先生が身近に感じられます。入学当初は先生と学生の関係がもっと離れていて質問などできるのかと心配していたのですが、実際はやさしい先生が多く、しっかりと対応してもらえます。心理学科には1・2年生の頃から、実験演習科目など少人数授業もあり、学生同士の距離も先生との距離同様、身近に感じられますね。


1年生から始まる実験演習科目の楽しさ

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実験演習の話を聞かせてください。

1年生の基礎実験演習Ⅰ・Ⅱは必須科目で、半期に4つ、1年間で8つの実験を行いました。1つの領域を3時間(90分×3)かけて実験します。実験の内容はその領域によって様々です。例えば「認知心理学」の分野では「錯視について」の実験をしました。矢羽の長さは同じだけれど、線を横向きに内に向けて書くのか、外に向けて書くのかで長さが違って見えるというものです。それが「なぜそのように見えるのか?」その原理を学びました。また「記憶について」の実験もしました。記憶には短期記憶・長期記憶があり、その仕組みを学びました。

「記憶について」の話をもう少し詳しく聞かせてください。

テープから流れる10数個の言葉を聞き終えた後に、その言葉を書き出します。手元にはチェックシートがあって、それが「順番通りか、どこが抜けているのか?」など照らし合わせていきます。それと関連して妨害刺激や干渉がある場合、それは「どのような影響があるのか?」例えばテープを聞き終わった後に、簡単な計算をして「それでも聞いた言葉を記憶しているかどうか」「どの言葉の記憶に影響があるか」なども理解します。

なるほど。

これらは短期記憶の実験です。例えば何か情報を得たとすると、それはまず短期記憶として記憶の貯蔵庫に蓄えられます。短期記憶は一時保存で記憶できる容量も少ないので15秒~30秒ぐらいですぐ忘れてしまいます。数十秒間でも憶えておくには、反復して記憶していくなどリハーサルが必要。妨害刺激や干渉には弱いなどの特徴があります。レポートにも書いたのですが反復することや言葉同士の意味関連付けや身近なものと関連付けして憶えていくと記憶に残りやすいと個人的には感じました。

長期記憶について簡単に教えてください。

長期記憶はその言葉どおり。ふだん私たちが使用する「記憶」と呼ばれるものは、こちらを指しているケースが多いですよね。長期記憶は、短期記憶と違い、いったんこの記憶の貯蔵庫に入ると忘れにくく、多くの情報を蓄えることができます。


興味は社会心理学・産業心理学の領域へ

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他にはどんなことを行ったのですか?

人格心理学の分野になると思うのですが、矢田部・ギルフォード性格検査(YGテスト)(※1)で自分がどんな特徴なのかを調べたり、言語性IQ・動作性IQ・全検査IQを推定することができるウェクスラー知能検査を実施したりしました。またこれは社会心理学・産業心理学の分野に関わってくると思いますが、パーソナルスペースについての実験もしました。

※1 矢田部・ギルフォード性格検査
J.P.Guilfordが開発した手法を、矢田部達郎らが日本向けに作り直し、抑鬱、回帰性傾向、劣等感、神経質、客観性、協調性、攻撃性、一般活動性、のんきさ、思考的外向、支配性、社会的外向などの12の尺度に属する質問により、平均、不安定積極、安定消極、安定積極、不安定消極の5つに分類する検査方法

パーソナルスペースとは、簡単にいうと何でしょうか?

私の解釈ですが、パーソナルスペースとは「コミュニケーションをとる相手との距離」を指します。それも単なる人と人との個体など物理的な距離ではなく「相手との心の距離」のことです。

どんな実験を行ったのでしょうか?

まず相手に数メートル離れて立ってもらい、その相手に向かって歩いて行きます。そしてどこまで近づくことができるかを調べました。誰が相手であろうとある程度の距離で止まりますが、例えば相手が同性と異性ではその距離が変化します。同性は割と近くまで行くことができ、異性だとちょっと距離を置く。同性でも相手によって距離が違います。

とても興味深い話ですね。

心理学の研究対象は「人間」そのもの。人間は心や感情を持ち、環境に影響されます。また、さまざまな側面を併せ持った複雑な存在です。そんな人間を理解するためには、幅広い視野と知識が必要です。愛知学院大学は心理学のほぼ全領域をカバーした環境で学ぶことができます。それぞれの領域が重なりあって、自分を含めた人間理解ができていく。単なる知識だけでなく、実験で検証し、学びとることができる場だと感じています。


2年生になってから感じられた変化

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2年生になってから特に変化を感じることはありますか?

レポートの書き方です。心理学のレポートは「目的」「方法」「結果・考察」「要約」という流れで書きますが、1年生のときは「目的」のほとんどを先生が書いてくれました。その目的を2年生からは自分たちで書くケースが多くなりました。目的を自分で書くというのは、ささいなことに感じられるかもしれませんが、これが意外と難しいのです。

どんな所で難しいと感じるのでしょうか?

目的を除いた「方法」「結果」「考察」「要約」は、目で見えている現象面をまとめていき、自分の考えを述べるので理解しやすいのですが、「目的」はそれらの大前提にくるものです。これがズレてしまうと、その後の流れが全部違ってきます。目的から要約までは1つのつながり・流れがあります。さらにその内容が深くなればなるほど、目的をしっかり考える必要があると感じています。

他に印象に残ったことはありますか?

心理学の分野には、認知・行動、発達・教育、人格・臨床、社会・産業、計量など様々な分野がありますが、私はそれらを学んでいる過程で社会心理学・産業心理学の領域に非常に興味を持ちました。例えば、キティ・ジュノベーゼ事件。これは1964年ニューヨークで起った暴行事件ですが、キティはアパート帰宅直前に襲われ、大声をあげ、その声は38名もの人に届いていました。それでも誰も助けることなく亡くなってしまった。「多くの人が気づいていながら、なぜ助けなかったのか?」それを授業では、ひもといていくわけです。

もう少し詳しく教えてください。

はい。簡単にいうと「人は自分しかいないという状況だと、助けに行くもの」なのですが、この事件のように人が多くいる場合は「私が行かなくても、誰か助けに行くだろう」という心理がはたらくのです。この事件の後、このような社会心理学の領域における援助行動、傍観者抑制効果などの研究が盛んになっていくことを考えても興味深い話でした。

また、周りの人がいれば「自分の行動で他人はどう感じるのか?」と考えてしまいますよね?これらの話は「対人認知」という言葉につながっていくのですが、人はその人の容姿や行動、うわさなど断片的な情報で人を判断していきます。裏を返せば、だからこそ「他人からどのように見られているのか?」と気になるわけです。その母数が集団になればなるほど気になる。この対人認知の歪みが最初に話をした「いじめ」にもつながっていくということです。


心理学は私たちの生活に関わる身近な存在

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なるほど。

心理学というのは、特別なものではないです。私たちの身近なことに密接に関わっているもの。人と人との関わり合いで起こる様々な現象を学ぶので、生活全てにつながっていきます。

学んでいくうちに興味も広がっている感じがしますね。

はい。最近は産業心理学に興味があります。産業心理学は心理学の中でもリーダーシップや社会的パワー、キャリアなど組織内のことに関わるものです。単にリーダーと言っても、会社の状況によって求められるリーダー像が違ったり、動機づけをどのようにするかなど、ひと言で「良いリーダー」といっても定義できないものです。その点を心理学の観点から学んでいきます。産業心理学は社会に通じる内容で学びが深いものです。

心理学は幅広く、奥深い。

大学に入るまでは、社会心理学・産業心理学といっても理解できませんでした。学んでいる途中も、それが社会心理学だとは気づいていなかったです。それが学んでいくうちにわかってくる。興味も最初からあるのではなく、学びが深くなるほど理解できていき楽しくなるのです。私にとって社会心理学・産業心理学の領域はまさにそういうものです。


3年生から始まるゼミ活動と新たな目標

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3年生から本格的なゼミ活動が始まると思いますが、何を専攻しますか?

今、話をした産業心理学を主に学ぶ予定です。ゼミは高木先生が受け持ってくれます。2年生で受講した演習で高木先生の教えに興味を持ったことと、卒論も組織内での人間関係を書きたいと思っているのでこのゼミを選びました。

2年生で学んだ産業心理学がこのゼミの選択につながった。

はい、そうです。あと、私の知り合いで別の大学で経営工学を学んでいる人からも影響をうけました。その人はNeeds-Seeds-Wantsの研究をしており、その話を聞いて「心理学は社会や組織にも関わっている」のだと強い印象を持ちました。Needs-Seeds-Wantsは不足していること、自分が提供できること、自分が求めていること(将来求められること)この3つの要素が重なり合ったところで、自分がやりたいこと+現実にできることを考えていくものです。これらは組織論にもつながる話ですし、企業と社会の関わりマーケティングにもつながっていく話かと思います。どちらにしても最終的には人と人との関わり。1年生の時に学んだ「対人認知」なども絡んでくることです。

社会に出ていく上でも大事なことのように感じます。

心理学を学んでいる人は多かれ少なかれ、心に興味のある人、相手のことを理解したいと思っている人だと私は感じています。それがどの分野に注力されるのか?そう考えれば、心理学の領域も理解できてくるのだと思います。

将来はどのように考えていますか?

3・4年のゼミでまた考えも変わってくるのかもしれませんが、現時点では、産業心理学の分野での道を探っています。産業カウンセラーやこの学びを活かした職種などを考えています。また、この分野をさらに探求するために大学院へ行くことも選択肢の1つです。入学するまでは、スクールカウンセラー、臨床心理士の分野のことだけを考えてきましたが、広い視野で考えられるようになったのも愛知学院大学のおかげです。


多くの人と関わるということ

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加古さんの話を聞いていると学びの充実が感じられますが、
授業以外での活動の話も聞かせてください。

学内では、TA(Teaching Assistant: 通称TA)をしています。TAとはその意味のごとく、学生の補助する役割で、主にパソコンを利用する授業や自習時間に、わからないことを学生のそばにいて教えます。授業では、一緒に先生の話を聞くので、新たな知識を得たり、学生からは自分の知らないことも質問されて調べたり、非常に学びが多いです。

心理学科でもパソコンを使いますか?

はい。計量心理学の領域など、心理学的調査、検査結果等の統計的分析方法の所でも利用します。心理学科だけではなく、経営学部の1年生にWordやExcelなど簡単なことを教えることもあります。

他学部、他学科も教えることがあるのですね。

実はTAが他学部の先輩との交流にもなり、非常に刺激を受けます。もちろん同学部の先輩にも授業のことなど相談にものってもらったりと良い関係を築けますが、学部学科の領域を超えた先輩などと様々な話ができるので、視野がとても広がりました。

学外の活動はどうでしょう?

地元の居酒屋でアルバイトをしています。少人数で構成されていますが、アルバイトといえども、責任を持たされています。私はアルバイトのシフトも組んでいます。あっ。ちょうど今日(2010.3.18)で丸2年働いたことになります。実はこのバイトが先に話をした産業心理学への興味にもつながっています。


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どんな風に産業心理学への興味につながっているのでしょうか?

例えば、仕事の動機づけをすることで目的が持て、各自のモチベーションがあがります。また、みんなで協力し励まし合うことでチームワークが生まれます。それらの結果としてアルバイトといえども「やりがい」を持ち、みんなやめることなく仕事を続けている。全て、対人関係や集団・組織・産業場面における人間行動について学ぶ社会・産業心理学に通じる話です。先のリーダーシップ論にも関わりがあります。

興味深い話です。

もともと産業心理学や社会心理学って、日々の生活の中から抜き出されたことについて研究しているものなので身近なことに関わってきます。バイトの話でも「自分が必要とされていると思えるときにモチベーションが上がる」ということも産業心理学につながる話ですから。

大学生活を楽しんでいますよね。

はい。楽しいです。先のTAの話もバイトの話も、共通していることがあって「人と人との関わり合いの中で自分が考え、行動していくことで成長している」といえます。積極的に人と関わることで相手が理解でき、自分のこともわかってくる。その結果、価値観も変わる。その関わり合いと変化が楽しいのです。

最後に高校生のみなさんへひと言、お願いします。

私はスクールカウンセラー、臨床心理士の資格を取りたいと思って、ここ愛知学院大学へ入学しました。今はその興味が産業社会心理学・社会心理学の分野へ広がっています。私は個人的に高校生の時点では、やりたいことがぼんやりしていても良いと思います。あせる必要はありません。大学は何をやりたいか見つける場所だと思うから。本当に何をやりたいのかを見つけるには、多くの人と関わることが大切です。自分から積極的にさまざまなことを取り組むことで、いろんな人と関わっていけます。私も先生に自分から積極的に質問に行ったから今の自分があると思うし、TAも始めて本当に良かったと感じています。少しでも心がひかれることがあるなら、それは興味を持っているってことだから、その興味を大学で高めて行けたなら、きっと将来が見えてきて、楽しくなると思います。


取材を終えて

心理学を専攻しているというと「人の心が読めるの?」という質問をよくうけるそうです。読心術なる本もたくさん出ていますが、加古さんの話から心理学とは全くそういうものとは違っているものだと気がつきました。それは相手を理解したいという思いが先にあって、人と人との関わり合いから、相手の心、感情を学び、その過程を通じ、自分をも理解していく学問だということです。愛知学院大学は、実験・演習を重視したカリキュラムで、幅広い視点から人間を理解する大切さとそのための具体的なアプローチ方法を学べる環境が整っています。加古さんもスクールカウンセラーという目標から産業社会への興味に変化していきました。愛知学院大学での学びを通じて、自分が何をやりたいのかも明確になってきたのでしょう。心理学という難しく感じる分野を、時間をかけてわかりやすく説明してくれました。ありがとうございました!

一覧2010年5月号