芽生えた考古学への好奇心

森 まどか(もり まどか)さん 文学部 歴史学科4年生

考古学に興味をもったきっかけを教えてください。

幼少の頃から、父の影響で神社仏閣など、よく史跡めぐりに行っていました。その時代の建造物や仏像などを観るに連れ、「なぜそれらが造られたのか?」その背景に興味を持ったのがきっかけです。

幼少の頃から史跡めぐりですか?

はい。父は2つ年上の姉と一緒に私を連れていったのですが、姉は父の話を理解しているようでした。私はよくわからず悔しい感情を持っていたと思います。それで、自分でパンフレットを観たり、わからないことを調べたりしていくうちに、興味がわいてきました。

好奇心旺盛ですね。

わからないことを理解したい。見えないものをイメージ化したい。そういう思いは子供の頃から強かったように思います。

その好奇心が成長の過程でどう変化していったのでしょう?

中学生の頃は特に江戸時代の文化に興味を持ちました。文化にはその時代の暮らしが凝縮されています。その暮らしぶりを、残っている書物や史実から想像するのが好きでした。

その流れで高校生になったのですね。

高校では世界史を選択したのですが、 その時も例えばフランス革命という史実に対して、 それが 「なぜ起こったのか?」 「その時の社会背景は?」 「民衆の感情は?」 と繋げて考えていくことで、 より深く理解できる、 その過程が楽しかったです。

それらが考古学への関心へとつながっていったのですね。

そう思います。いつも「なぜ?」という好奇心から始まり、わかるまで調べる。その過程での発見は断片的なものですが、ある瞬間に一つにつながって、立体的なイメージとなります。私は歴史の学びを通じて、自分では気づかないうちにその楽しさを感じていたのでしょう。考古学は自分の目で遺物(※)を見て、触れることができますから、さらに歴史の楽しさを深めてくれるものだと思ったのです。

遺物(※):遺跡から出土・発見された、過去の文化を示す物品。考古学では、遺跡のうち、生活のための道具・器具や武器・装身具など動産的要素をさす


愛知学院大学を選んだ理由

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愛知学院大学の歴史学科を選択した理由を教えてください。

考古学を専攻したいという思いは既に高校生の時に持っていました。そこで大学案内など調べてみたのですが、愛知学院大学が考古学の分野では群を抜いて深く学べると感じました。

どういった点に他大学との違いを感じましたか?

歴史学科が、世界中のあらゆる地域と時代の歴史をカバーした、 中部地区唯一の学科ということもあり、その期待も高かったです。 また考古学の分野においては本格的な発掘調査について定評があり、その実績が豊富です。 考古学整理室には全国の発掘調査報告書などが1000冊以上ありますし、 長年の考古学実習で出土した遺物も整理されています。 「私の好奇心を満たす場所は、ここしか無い」 と思いました。

1年次はどんな学習をするのですか?

「日本史」「東洋史」「西洋史」「イスラム圏史」「考古学」の5コースの概説を全て履修し、専門的に学ぶコースを決定していきます。

全部履修するのですか?

はい。横断的に学べることで視野が広がります。また自分のやりたいことが明確になります。私はトルコなどにも興味を持っていたのでイスラム圏史を学ぶこともでき、良かったです。

それは選択肢も広がって良いですね。

はい、何を専攻するか、まだ決めかねている学生にとっては、1年次の学びで何をやりたいかわかってきますし、私みたいに考古学を専攻すると決めていても、その分野以外の学びは視野を広げてくれます。

そう考えていくと総合的に学べることは良いですね。

1年次の学びは大事だと思います。歴史は一つの出来事が時空を超えて影響を及ぼします。一見、つながっていない所で実は深く関係があったりします。新しい発見をしていくには、高い専門性だけではなく、物事を横断的に幅広く捉えられないといけません。専門的な学びはもちろんのこと、まずは幅広く学べるということは有意義だと思います。


「先史考古学」文字のない時代を探る

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ゼミは2年次からですか?

そうです。少人数ゼミで議論や発表などの体験を重ね、専門分野の研究に取り組んでいきます。

考古学コースについて教えてください。

考古学とは人々が残した過去のモノ(遺跡・遺構・遺物)を分析し、歴史を解明する学問です。このコースには先史考古学と歴史考古学の2コースが用意されています。先史考古学は旧石器時代から縄文時代草創期(約35,000年~15,000年前)を対象としています。歴史考古学は古墳時代から現在までの遺跡や遺物を対象とする、考古学でも新しい分野の学問です。

どちらを選択しているのですか?

先史考古学です。先史考古学を選択した理由は全くイメージがわかない時代だからです。15,000年以上も前のことなんて今まで縁もなければ、何の知識もないです。大学での時間をその研究に使いたいと思いました。

全くわからないから敢えて選択したということでしょうか?

そうです。未知な世界だからこそ好奇心をかきたてられました。先史時代は文字がない時代です。書物などはなく、全て発掘調査での遺物からその時代を想像していきます。その過程が楽しいと感じていました。

それはまさに望んでいたことですね。

文字のない時代を発掘調査でどこまで立体的にイメージできるか?まさに大学に相応しい研究だと思います。


発掘調査から学ぶこと

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発掘調査とはどういうものだと想像していましたか?

掘ればザクザクと遺物が出てくると思っていました。もちろん現実はそうではありませんでした。

実際はどんな感じでしょう?

まず念頭におかないといけないのは、発見のために掘ることで、遺跡は少なからず壊れるということです。だから失敗は許されません。そのために地形を調べたり、標高などしっかり測量したりして、その全てを記録に残します。発掘するまでの準備も大変です。

それは大変な作業です。

発掘作業もただ掘れば良いというわけでなく、例えば2mの方眼で一区おきに表土をはがして、まずは遺構(※)の有無を確認するなど慎重に実施されます。

遺構(※): 昔の都市や建造物の形や構造を知るための手がかりとなる残存物。考古学では、住居跡・倉庫跡・水田跡など、その配置や様式を知る手がかりとなる基壇や柱穴など。

どこで発掘調査を行ったのですか?

私たちは2、3年次の夏休みに長野県にある治部坂(じぶさか)遺跡に行きました。期間はそれぞれ約10日間。過去の調査区を確認しつつ、旧石器時代の遺物分布を把握し、発掘範囲を広げて調査を実施しました。

何かでてきましたか?

表面採集でナイフ型石器が出てきて、その場所を基準に発掘をすすめていくと、黒曜石製の遺物や、赤く焼けたような岩を含むまとまった石などが発見されました。約1万9000年前と考えられる遺構もあり、多くの発見ができたと思います。

(調査の様子 参照:2010年調査 2011年調査 共に 南信州新聞)


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それは凄い!

その遺構や遺物から石器を使っている様子や生活している姿がイメージできてきます。その瞬間はゾクゾクしますね。欠けた刃物を見てもそれが加工時に欠けたのか、使っていて欠けたのか、そんなことまで想像してしまいます。まるでその時代にタイムスリップしたようなそんな気持ちになるんですよ。

発掘調査を経験しないと味わえない感覚ですね。

遺物はいろんなことを教えてくれます。あと地層も年代を推測する上で重要な要素です。例えば同類のナイフ石器や細石刃、尖頭器などが、地域によって異なる年代の地層から発見されます。一見、同じような遺物に見えても、使用されている時代が違うのです。

興味深い話です。

また、石器の加工の仕方が違ったり、同じ地域でも人によって得手不得手があったりとその違いに気づくこともあります。遺物を観ながら「ああ、この人、石器づくりは苦手だったのかなあ」など皆で話をしているときも楽しいものです。

おもしろいですね。

石器の材料となる黒曜石の特徴の違いからも様々なことがわかります。透明度、赤みなど、その特徴の違いから産出場所が特定できます。さらに深く追究していくと、新たなことがわかってきます。

どんなことがわかってくるのでしょうか?

例えば伊豆七島の一つである神津島(こうづじま)産の黒曜石が、はるか彼方の南関東や長野県の矢出川遺跡で見つかるなど、旧石器時代に海の流通があったことがわかってきます。

それは驚きです。

このように発掘調査から様々なことがわかってくるのです。考古学は、遺物や地層などから、仮説を立て、検証し、結論を出していく。それを繰り返すことで、わかっていない空白部分を埋め、その暮らしぶり、時代を立体的にイメージしていけるのです。その想像は文字のない先史時代だからこそ、なお一層、強くなります。それが考古学の面白さです。


恵まれた仲間。そして将来のこと

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同じ意志を持った仲間もできそうですね。

私だけでなく全員が目的を持ち歴史学科にいます。特長がある学科だけにみんなモチベーションも高いのです。ゼミを超えての交流もあり充実しています。

講義以外でのつながりもあるのでしょうか?

女性10数名で歴女会をつくり、博物館巡りなどをしています。歴女というと武将好きと思われるかもしれませんが、私たちはその時代の道具や武器をみて「カッコいい!」と盛り上がっています。マニアックですよね(笑)。でもみんなその時代を想像するのが楽しいのです。

良い仲間ですね。

ありがとうございます。実は大学進学の際、就職のことを考えて他学部を受験しようかと悩んでいました。今は好きな考古学を選んで本当に良かったと感じています。4年間頑張れたのは好きなことだからこそですし、それは就職活動でも胸を張って言えることだと思います。こんな素敵な仲間にも恵まれて、愛知学院大学に来て良かったです。

卒業論文の内容は決まっていますか?

卒論は細石器文化についてまとめようと考えています。細石刃を初めて見た時、とても衝撃を受け、追究したいと思いました。細石刃は小さく薄い現代のカミソリに似ているのです。

カミソリに似ているものが旧石器時代にあったのですか?

それだけでも驚きですよね。旧石器時代にあれだけ薄く石を加工するのは至難の業です。私も石を実際に割ったことがありますが、途中で欠けてしまい簡単に造ることは出来ません。加工することが難しい時代に、こんなに繊細で、ましてや現代につながるものがあるなんて、それを想像するだけでもワクワクしてきます。

本当に楽しそうですね。

ありがとうございます。考古学のことを話すと夢中になってしまいます。

将来はどういう進路を考えていますか?

博物館の学芸員や、伝統工芸を扱う職場にも興味があります。お茶屋や和菓子屋など、古き良き文化が継承されている伝統あるところも良いですね。文化や伝統を守りながら、新しい時代へ歴史を紡いでいけたらと思います。

最後に高校生へ一言お願いします。

4年間を充実させるためには自分の好きなことを学ぶのが一番です。 大学受験前に私自身、迷いましたが、 学びたいことを学べる環境へ進んだことに、 共通の意識を持った仲間にも恵まれ、とても満足しています。 やりたいことを徹底的にすれば、 必ず良い結果が得られると思います。 自分がやりたいと思う道へ迷わず進んでください。


取材を終えて

「考古学は楽しい」。それが取材を終えての正直な気持ちです。それは単に発掘する楽しさだけを言うのではありません。発見される断片的な一つひとつの遺物から、つながりを発見し、立体的にその時代を想像する。自らが調べ、問題を掘り下げ、考え、検証し、結論を出す。その過程は、まさに多様化した社会を生きていく上でも必要なことだと感じました。考古学の学びが、新しい社会を切り拓いていく力とつながっていることに、歴史の奥深さを感じます。多大な学びを得た森さんなら、どのような環境でも未来を切り拓いていけると思います。卒論に就職活動、がんばってください。社会に出て活躍される姿も楽しみにしています。

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