事業を起こしたいという思い

高羽 剛史(たかば つよし)さん 経営学部 現代企業学科(現:経営学科)3年

経営学部を選んだ理由を教えてください。

事業を起こしたい気持ちが強かったからです。また、人と関わりあい、何かを成し遂げたいと感じていたからです。

事業を起こす際の具体的なイメージはありましたか?

流石に具体的なイメージはなかったですが、大学で学ぶ過程で、見つかってくるだろうと感じていました。「自分はどういった分野で事業を起こしたいのか?」そのことをテーマに大学1年は過ごそうと思ったのです。

大学に入学してやりたいことは見えてきましたか?

最初は試行錯誤の連続です。すぐにやりたいことが見えるということはありませんでした。ただ、起業の意欲は強かったので、常にそのことを意識していました。「自分がやりたいこと」「事業として成立すること」この2点に重心を置いて行動しました。講義以外の時間も大学の図書館で、経営に関わる図書を読んでいたのも、その気持ちの表れだったと思います。

その試行錯誤に光が見えてきたのはどんな時だったのですか?

鵜飼先生との出会いです。(※)現代企業学科には学びの選択肢として5つのコースがあり、 その一つに「 企画・開発・起業コース 」がありました。 ここではベンチャービジネスや事業計画に必要な発想力・プロデュース能力を養うのですが、 鵜飼先生からの教えは、 僕が目指したいことと、 方向が一致しているように思えたのです。

(※)2013年4月より経営学科に統合されます。

それはどんな教えだったのでしょうか?

「地頭(じあたま)を鍛える」ということです。地頭を鍛えるとは、物事に対して自らが考える力を身につけることを指します。つまり、変化への対応を柔軟にし、論理的に物事を捉えられるようにしようとするものです。

その言葉になぜ共感したのでしょうか?

自分で何かをやっていこうとするには、まさにこの地頭が必要だと感じたからです。「何をやりたいか?」と考える前に、この地頭を鍛えよう、そうできるよう訓練しようと思えたことが僕にとっての光でした。事業を起こすために、最初の目標を導いてもらった、そう思えた言葉でした。

「目的が具体的になった」ということですね?

そうです。まずは「やりたいことを探す」のではなく、「やりたいことができるように、必要な力を身につける」ことが大事だと感じました。つまり、事業をしたいという大きな目標、その力を身につけるという目の前の目標、その双方の目的が明確になったことで、これからの学びが充実していく確信が持てたのです。


地頭を鍛える

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地頭を鍛えるために何を学んでいったのですか?

1年次で印象に残っているのは「特別経営講座A」という講義です。様々な先輩起業家・経営者に足を運んでもらい、講演やワークショップを通じて、考え方や価値観を学ぶというものです。実際の経営者の声を直に耳にし、考えることで、思考の基礎が身につき、視野が広がりました。

実践的な講義ですね。

はい。まさにその実践形式が大学ならではと感じました。また、講義終了ごとに、感想をメールで提出していたことも、考える力の糧になったと思います。ある時、その講義があまりにも印象に残り、その思いをレポートに熱く書いた時がありました。その内容を見て「意欲的で良い」と評価してくれたのも鵜飼先生でした。そのやりとりをきっかけに、講義に関する質問や、将来の個人的な悩みごとも聞いてもらったことで学びに対して意欲的になることができました。

2年次はどんな学びだったのでしょうか?

春には思考のプロセスを学びました。「自分で考えたことをどのように整理し、形にしていくのか?」その発想法と流れを修得しました。そして2年の夏休みのゼミ合宿を経て、本格的に新規事業プランを立てていきました。

その後はどのようなプロセスを踏んでいったのですか?

2年次は12月に開催された、学内経営学部のゼミナール大会を目標に活動をしました。自分たちで研究テーマを決め、事業プランをつくりあげていき、その大会で発表します。各ゼミ3~4組が参加、総勢50組が教授を前に発表するというものです。

その大会に参加するためにどんなことをしたのですか?

まずはチーム内でアイデアを絞り、企画の骨組みを決めます。その後、プレゼンテーションのために、主張を明確にし、発表の道筋を決め、パワーポイントなど発表資料を作成します。そしてグループ討論、ゼミ内でのコンテストなどを経て、学部全体でのゼミナール大会へ出場する流れです。

どんなテーマでまとめたのですか?

最初は「商店街の活性化」について新規の事業プランを立てていました。しかし途中でテーマを変更し、新しいプランを一から練り上げました。商店街の活性化も大事なテーマでしたが、それよりも今だからこそ、やらなくてはならないテーマが合ったのです。

そのテーマは何だったのですか?

被災地向けの新しいビジネスを考えることです。2011年3月に大震災がありました。僕たちが大学1年生から2年生になろうという時です。あの大震災と津波を見て、何かできることはないか?ボランティアなどとは違った形での、復興支援はないかと考えていました。


僕たちが考えた復興支援

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ボランティアと違う復興支援とは?

僕たちが考えたのは、被災地の方が自らできる自立支援を促すことでした。単に家を建てる、車が必要だからそれを売る、そういったビジネスではなく、被災地の将来を考えた新しい事業を考える必要性を感じたのです。

それはどういったことでしょうか?

まず、現状課題を考えました。被災された方々は資産を失い、また職もなく、収入がありません。コミュニケーションも薄れ、孤独を感じている人も多いと感じました。そこで考えたのが、現地のためになる仕事をつくり、その仕事を通じて、被災者自らが被災地の支援ができ、その結果、職にもつけ、収入も生まれる、そういったビジネスを考えたいと思いました。

それは素晴らしい。

仕事をする場ができれば、そこに新しい人との関わりが生まれます。そこには今までにはないコミュニケーションが生まれ、徐々にですが元気も出てくると思ったのです。ビジネスとは単に収益を上げれば良いというものではないと思うのです。もちろん収益も大事ですが、人が集まる場を設け、人と人との関わりをつくり、コミュニケーションをつくる。まさに被災地にはそれが必要で、支援したいと考えました。

具体的にはどんなビジネスプランを考えたのですか?

宮城県にフォーカスし、現状課題を整理しました。すると北部は、住宅を失い、仮設住宅に住む特に高齢者が多く、南部は塩害被害がひどいことがわかりました。そこで、北部の方には集まって助け合いながらできる内職を、一方で塩害にあった土を使ってレンガ製造をすることで自立復興の支援ができないかと考えたのです。

なるほど。それは良いですね。

仕事があって多少の収入にもなり、地元の復興支援にもなる。人との関係もできるでしょう。そのことをきっかけに心を満たしていくことにもなれば、「被災地でできる事業を考えることで復興に貢献する」その意義があると感じました。

なぜレンガ製造をと考えたのですか?

レンガはかつて、土に塩を混ぜて製造されていたそうです。それであるなら、塩害があった土でも、その安全が確保できれば再生可能だと感じました。また、レンガは様々な使い方ができます。その使い方もアイデアの一つとして提案していきたいと考えていました。今はそのビジネスプランの実現に向けて奔走しています。


事業プランを現実にする

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実際に事業化していっているのですか?

はい。まず、内職は愛知県の企業(株式会社内職市場)に協力していただき、500人分以上の仕事を提供いただく形になりました。愛知県の職場では、内職の方々が笑顔でコミュニケーションをとりながら仕事をしています。被災地でもそんな職場となるようにとの思いを込めて、計画をすすめました。

レンガ製造の方はどうでしょうか?

レンガを製造していくことは、大変、難しいことです。簡単にはできません。まずは、先生からの紹介で地元の企業(株式会社瀬戸ブリック)へこのビジネスプランを持って、話に行きました。その際に「一緒にやっていこう」と言っていただき、現在、事業化に向けて着々と話を進めています。

苦労することも多いのではないでしょうか?

先にも話をしましたが「塩害の土」をレンガに変えるわけですから、 その安全が確保できないとこのプランは実現化できません。 それを細かくチェックすることも必要ですし、 配合をどうするのか? 重さや耐久性のことを考慮する必要があります。 そして、デザインをどうするか? デザインは単なるカッコ良さではなく、 使い勝手の良さも含まれますから、 それらを総合的に考え、 自分たちが創っていかなくてはなりません。

事業プランを実現するということは相当な覚悟がいります。

多くの方のご協力なくして実現できません。また、アイデアを創った私たちが、情熱を持って、この事業の必要性を訴えていく必要があります。まだ道半ばですが、必ず実現していきたいと考えています。

貴重な経験をしていますね。

これも関わっていただいている皆さんのおかげだと感謝しています。実は、このアイデアが事業化していくきっかけは、「TAC-Keio SFC Entrepreneurship Seminar and Business Plan Competition」に参加できたことにありました。全国10大学49名の学生が集まり、プレゼンテーション後、最終審査の結果、最高賞の1つである「地域貢献賞」を受賞したことにあります。そこで審査員の方から「是非、この事業プランを現実のものとして欲しい」との言葉をいただいたことが、今日につながっています。


塩レンガが結ぶ人の縁

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凄い話です。

そのきっかけから、多くのご協力者に出会うことができ、そのご縁にも感謝しています。地元、愛知県だけでなく、宮城県のみなさんとの出会い、連携があって、話をすすめることができています。そのことにも感謝したいです。

宮城県の方々とはどのような連携をとっているのですか?

事業プランを実現するにあたり、まず現地に行こうと考えたのですが、もちろん知っている人もいません。そこで鵜飼先生に相談して、まず、東北福祉大学さんへ伺って自分たちの意見を聞いてもらおうということになりました。もともと、同校と愛知学院大学とは姉妹校であり、交流が持てたことが大きなきっかけとなりました。

それは良かったですね。

そして、その東北福祉大学からも、縁が広がりました。同校は、女川復興連絡協議会(FRK)とのつながりがあり、農園をつくるなど積極的な活動をしていました。FRKは民間の立場から復興のグランドデザイン(空間設計)を行政に提案し、女川町の復興と再生に取り組んでいる団体です。ご一緒できたことで一歩も二歩も前進できたと思います。

どういった意味で前進できたと感じたのですか?

それは僕たちが考えているレンガをグランドデザインの一環として考えてもらうことができたことです。またFRKには女性のタイル職人がいて、アドバイスや意見交換ができていることもプラスになっています。

良い方々とご一緒できましたね。

このことがきっかけとなり、FRK、東北福祉大学、瀬戸ブリック、愛知学院大学でプロジェクト(プロジェクト名 4×4 フォーバイフォー)を組むことができました。その活動の一つとして「おながわ秋刀魚(さんま)収穫祭」へも参加し、自分たちのレンガをアピールすることができました。

どんな活動をしてきたのですか?

僕たちがプロデュースするレンガを組んで、 ピザ窯をつくって焼きました。  さんまを入れたピザです。 さんま収穫祭でピザを焼いているのは僕たちだけで、 その分、人も集まってもらうことができ、  もちろんレンガのこともアピールできたと感じています。


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レンガは既にできているのですか?

はい。色見本の段階まで、できています。このレンガは通常のレンガとは違い、モルタルやセメントを必要としません。合成樹脂で形成されたジョイントを使い組み立てるので、簡単に組み変えることができます。レゴブロックのようなイメージです。

いろんな使い方ができるのでしょうか。

例えば、普段は花壇として使ってもらうこともできます。災害時は仮設トイレ、炊き出し釜にしてもらうことができます。防災道具機能を兼ね備えたレンガ。それを塩害被害にあった土をもとに商品化したいのです。

ここまで形になっているとは想像していませんでした。

デザインをしているのもゼミ生なんです。3DのCADを扱い、イメージを形にしていってくれています。このプロジェクトは誰ひとり欠けたとしても実現できなかったと思います。

これからも東北へは足を運ぶのですか?

はい、明日から(取材日:平成25年2月4日)、現地調査、ヒアリング調査などを目的として、宮城県へ行きます。現地に行かないとできないことも多くあるので、時間が許す限り出向きたいです。

一つの事業ができていますよね。

まだまだこれからです。僕自身、将来の選択時期でもあり、仲間は就職活動もスタートしていますが、このプロジェクトを中途半端にすることはできません。将来をかけ、事業化したい思いですし、経済産業省から震災復興創出促進事業として支援してもらっているので、少しでも早くこのプロジェクトが実現できるよう、全力を尽くしたいと思います。

その情熱が伝わってきます。

愛知学院大学の経営学部に来て、本当に良かったと思います。人と機会に恵まれ、感謝です。

最後に高校生の皆さんにひと言お願いします。

自らが考え、強い意志を持って行動していくことが大事だと思います。その情熱、行動から生まれる人との縁は、自分の可能性を広げてくれるものです。一歩、外に出るだけで世界は変わります。愛知学院大学にはそのチャンスがあります。そのチャンスを生かすのは自分次第です。互いに目標に向かって頑張りましょう。


取材を終えて

今回は取材をしている感覚ではなく、一つのプレゼンテーションを受けている、そんな気持ちになりました。事業プランは壮大で、かつ社会に求められていることであり、思考プロセス、実施に向けての行動、全てが魅力的でした。特に塩レンガの話は顕著で、実際の商品写真を見せてもらって、この短期間でここまで現実なものになっているのかと驚きました。新規の事業プランを創造することは大変です。でもそれ以上にその実現は、協力、支援、多くの人の心を動かさないとできないものです。高羽君はそれを今日のように情熱を持ち、関わる人に感謝をしながら、実現していっています。その姿が経営学部での学びを象徴しているように思えました。彼のプランが実現されれば、多くの方が幸せになることでしょう。是非とも事業化し多くの人を笑顔にしてください。感動しました。ありがとうございました。

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