Club Interview vol.007 書道部 関野 了(せきの りょう)さん 文学部日本文化学科

創部20年を超えた書道部。経験者から未経験者まで、幅広い部員が集まる。様々な書体にチャレンジでき、自己の表現を磨く。書に向かい合う一連の所作を通じて、精神が鍛錬できる。書道だけではなく水墨画や篆刻などにも挑戦できる。歴史や伝統を尊び、文化を理解することで、情操を養う。 書道は「精神の芸術」

01 部員36名。幅広く集う。

書道部について教えてください。

書道部は20年以上前に創部されました。日本文化学科の明園劉作勝先生の指導のもと、本格的な「書」を学ぶことができます。日々の練習に加え、数多くの作品展にも出品、入賞を目標に活動し、書道だけではなく、水墨画や篆刻(てんこく※)に取り組むなど、各自の目標に向かって精進しています。

※ 篆刻(てんこく)
石・木などの印材に字を刻すること。主に書画などに用いる印章に、篆書体(てんしょたい)の文字を彫ることから篆刻という。

部員は何名ですか?

36名です。1年生が13名、2年生が3名、3年生が14名、4年生5名、大学院生が1名で構成されています。男女比は半々です。

活動内容を教えてください

月・水・金の17時から20時の間、日進キャンパスの書道教室で活動しています。春に新入生歓迎会があり、その後、全日本高校・大学書道展などの各書道展や、大学祭(大書道展)など学内のイベントにも参加し、2月の愛知学院大学書展の後、卒業生を送り出して1年間の活動が終了します。夏には強化合宿もあり、充実した1年です。

みなさん書道の経験者なのでしょうか?

いえ、未経験者もいます。幼い頃から続けてきた者もいれば、大学に来て再開した者もいるなど、未経験者から経験者まで幅広く、個々の目標に向かって活動しています。 書に向かっている時は、集中していますが、部員みんなが仲良く、和気あいあいとしていますね。

大学で書道は、それまでの書道とは違うものですか?

大学までの書道は、書体や表現が決まっていて、それを書き写すという印象があるかと思いますが、大学での書道は、書体も自分で選択し、自ら表現していく感じです。当部員も、ここでは、今まで経験したことのない書体にチャレンジし、やりがいを感じているようです。

02 大学での書道。やりがい。奥深さ。

普段はどんな練習をしているのでしょうか?

作品を仕上げるのに半切(※)に何枚も書き、自分で満足できた書を劉先生に提出します。多い人だと、1作品で50-60枚は書くでしょうか。なかなか満足いくものはできないものです。

※半切(はんせつ)
(約35cm×約136cm)全紙を縦に半分に裁断した書道用紙サイズの呼称

そんなに書くんですね?

書道の場合、紙、筆の運び、墨の乾き具合など一つも同じ条件のものはありません。まさに一期一会の世界です。全ての条件が整い、満足ができる書には、なかなか出合えるものではありません。

それは大変です。

だからこそ、書道はおもしろいとも言えます。何度やっても満足できないからこそ、真摯に向かい合う。書道を通じて自分を成長することができるのだと感じています。

なるほど。それがやりがいなんですね。

例えば自分が満足した書でも、先生からアドバイスが入るケースもあります。書道は自己の表現の場ですが、自己満足だけでは成長がありません。違った視点で観てもらうことで、新たな気づきが生まれ、自分の書がまた成長していくのです。

書道は奥深い。

本当にそう思います。同じ文字を書いても、表現は全て違います。人の数だけ個性があり、表現の仕方が変わるわけです。書で自分の表現ができるよう、毎日の積み重ねが大事だと思います。

好きな書家はいらっしゃるんですか?

唐の時代の三大書家は人気がありますね。

三大書家とは誰なのですか?

欧陽詢(おうようじゅん)、虞世南(ぐせいなん)、褚遂良(ちょすいりょう)が三大書家です。欧陽詢は「九成宮醴泉銘」(きゅうせいきゅうれいせんめい)が有名です。虞世南は「孔子廟堂碑(こうしびょうどうひ)」、褚遂良は「雁塔聖教序」(がんとうしょうぎょうじょ)など、それぞれ代表作があります。

これらの書には、どのような特長があるのですか?

欧陽詢や虞世南の代表作は「楷書の極則」と呼ばれているくらい、これ以上のものはないと言われています。褚遂良は欧陽詢と虞世南の書風の特長を吸収・融合し、「雁塔聖教序」を書き上げています。

歴史を感じますね。

文字は、甲骨文字の時代から考えれば、4千年の歴史があります。甲骨文字には、筆で書いた跡も発見されています。筆で書いてからその後に掘るんですね。発見されたものは、掘る途中のもので、文字が残っています。また甲骨文字の中にも人間が右手で筆を持っているものがあります。

凄い話です。

書体には、篆書・隷書、楷書・行書・草書、そして、かな交じりがあり、それぞれその時代、文化など背景があります。時には書かれた時代に想いを馳せ、その時代の人に心を重ねて、書くこともあります。歴史や伝統を尊び、文化を理解することで、情操を養うことができるのも書道の醍醐味です。

芸術の領域ですね。

書道は「精神の芸術」と言われています。墨をすり、筆を選び、紙に向かい、丹念に書き上げるその所作を通じて、精神を鍛錬することで自分が表現できる。逆に、心をいれないで書くと、書が乱れます。書は心の鏡でもあるようです。そういった意味でも書道は、精神の芸術と言えるのではないでしょうか?

03 モチベーションが高まる作品展。

例年、多くの作品展にも参加していますね。

はい。賞をとるために書道をしているわけではないのですが、他者の評価は重要ですし、一つのモチベーションにもなります。今年、6月に開催された全日本高校・大学生書道展も4名入賞しました。1万点の応募で700名弱の入賞ですから、感慨もひとしおです。

夏の合宿ではどんなことをしたのですか?

今年は滋賀県の観峯館にて、臨書(りんしょ※)を徹底的に実施しました。石碑に紙を貼付けて直接、拓本(たくほん※)をし、臨書する体験は貴重です。普段の練習とは違い、身が引き締まる思いでした。

※臨書(りんしょ)手本を見ながら書くこと
※拓本(たくほん)石碑などに刻まれた文字を原寸のまま紙に転写したもの

それは良い体験ですね。

県外に出て、場所を変え、書に向かい合う。それだけでも身が引き締まる強化合宿です。

印鑑も自分でつくるそうですね。

はい。自分で文字を書き、印床に挟んで、篆刻刀を使って彫り上げます。印鑑の文字の彫り方で、朱文(しゅぶん)、白文(はくぶん)とあります。朱文は文字を残す彫り方で、白文は文字を削りとってしまう彫り方です。名前の最後に押す落款印(らっかんいん)も自分たちでつくります。楽しいですよ。

今日の話で書道の魅力が存分に伝わってきました。

そう言ってもらえると嬉しいです。

2月には愛学院書展がありますね。

今回で22回目を迎えます。2013年2月5日(火)~10日(日)に、名古屋市中区役所内にある市民ギャラリー栄で開催されます。今年度の集大成です。是非、皆様にお越し頂きたいです。

最後にひと言お願いします。

書道部は、経験に関係なく、書を通じて、人が集える場です。そこでは、かけがいのない仲間ができます。部長として、部を引っ張っていくのは難しく、嫌だなと思う時期もありましたが、続けてよかったと思っています。歴史ある書道部を通じて、社会に出て行く力も身につけさせてもらったと感じています。元気な人、大歓迎です。是非、書道部の門を叩いてください。よろしくお願いします。

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取材を終えて

「書道は奥深い」。それが取材後の率直な感想でした。書体、墨、紙、筆、書方など様々で、同じ文字を表すにも、それらの環境で全く違う表現になることが理解できました。また書を学ぶことは、歴史や文化などその時代の理解にも、精神鍛錬、情操を高めることにもつながると感じました。今はメールを始め、文字を紙に書く機会が減っています。そのような時代に、墨をする所から始め、書に向かうその姿は凛々しく感じました。 ありがとうございました。2月の愛学院書展も楽しみにしています。
(取材日2012年9月19日)