古武道の居合術(抜刀術)を現代武道化したものです。その起源は室町時代とされ、抜刀の一瞬に勝敗を決する武術として、生死をかけた修業が行われていたとされています。現代では、日本刀の操法を通した、剣の理法の修練による人間形成を目的として行われています。始祖である林崎甚助重信の神夢想流に始まる多くの流派が存在します。
1998年(平成10年)に創部しました。現在、部員は20名(平成26年2月現在)です。男女構成はほぼ半々。部員の中に剣道の経験者はいますが、居合道はほとんどが未経験者です。稽古の時間は、月~金曜までの1限目(9:30~11:00)の時間帯。ピンと張り詰めた朝の空気感が、居合道に合っているように思います。愛知学院大学の居合道部は、無数にある流派の中でも大手とされる無双直伝英信流の系統に属しています。江戸時代に長谷川英信という武士が開いた流派だそうです。はるか昔に生まれた流派を、時を超えて私たちが引き継いでいると思うと、ロマンを感じずにはいられないです。
6月に愛知県居合道段別選手権大会があります。これはその名の通り、段ごとに競い合う大会です。8月には、大学の研修会館という宿泊施設において2泊3日で稽古に励む夏合宿を行います。実際の相手を前に木刀で対戦する組太刀や試し切りなど、時間がかかるために普段の練習では、なかなかできないような練習内容もできます。9・1月には昇段試験、10月には東海学生居合道選手権大会、11月には全日本学生居合道選手権大会があります。
7月の香川大会、10月の高知大会、12月の大阪大会などがあります。大阪大会は数千人の参加者があり、愛知学院大学の居合道部が参加する大会としては最も規模が大きいです。どの大会も、希望者のみが参加しています。
今年度(平成25年度)は、愛知県居合道段別選手権大会において、二段の部で部員が第三位に、初段の部で私が優勝し、第三位に2人の部員が入りました。県外の大会では、第42回香川居合道大会、第51回高知居合道大会で準優勝を私が収めています。最近では、先日、第25回東海学生居合道選手権大会が行われ、初段の部で優勝、準優勝を私と部員が獲得、無段の部でも部員が優勝しました。
居合道の試合は、2名の出場者が真剣または模擬刀を用い、あらかじめ定められた全日本剣道連盟居合と各流派の型(かた)のうち、合わせて5本を6分以内に演武します。「礼儀」、「技の正確さ」、「心構え」、「気・剣・体の一致」、「武道としての合理的な居合であること」などを基準に審判員(主審1名、副審2名)が判定して勝敗を決します。
稽古の時間は1時間半。準備運動の後、始まりの挨拶を行い、基礎となる素振りをし、流派を超えて統一されている12の型を中心に練習をします。時々、対戦式の練習「組太刀」も行います。講師は、地域の熟練の方にお願いしています。練習内容については、試合のスケジュールに合わせ、今、欠けていると感じる部分や習得すべき要素などを考え、学生が主体となって構成しています。
幼い頃からテレビや本などの影響で日本刀に憧れを持っていたので、居合道の存在を知った時に「やってみたい!」と思いました。また、大学から何か新しい部活に入るのならば、あまり経験者のいない部活がいいと考えていたのです。その点、居合道はぴったりでした。
見た目の格好良さに引かれて入部しましたが、奥の深さを目の当たりにし、あらためて入部して良かったと思いました。居合道では基本的に実在する相手はいません。目に見えない一人または複数の仮想の敵を思い描きながら、体をさばき、刀を振ります。それが、型です。客観的に自らを見つめながら仮想の敵が意識できていなければ、どんなにキレの良い動きをしていても、ダメです。
その通りです。どれだけ練習しても、終着点が見えません。練習すればした分だけ課題も見えてきます。
いえ、見えてないですね。大会で勝つことだけが全てではないのです。実は、ちょっと前まで私は、勝利が全てだと思っていました。だから、香川大会の初段の部で優勝した際に、自分の中で終わりが見えた気になってしまったのです。大きな大会で優勝できたからもうすることはない、と考え、その後はしばらくモチベーションが上がりませんでした。でも、熟練者の型を見ていて、試合の勝利が全てではないと気付いたのです。
熟練者の磨かれた型には、身体のキレや筋力などでは出せない深みがあります。周囲の空気が変わります。存在しないはずの敵が浮かび上がってくるようです。その凄さに触れて、私は自分が抱いていた考えの甘さに気付くことができました。
そうありたいと思いますが、なかなか難しいです。ただ、見えない敵に対峙する居合道の姿は、自分の中の弱さや傲慢さに向き合う、ということにもつながっているように思えます。居合道の源は、武家時代においての武士のたしなみだと聞いています。生死をかけた環境では、自らに厳しくあることが、きっと、当然だったのではないでしょうか。
入部したての頃と比べれば、少しは心の平静を保てるようになったように思います。でも、まだまだです。もっともっと稽古が必要です。
はい。でも、それが嬉しいとも感じているんです。居合道は、筋力や身体のキレだけが大切ではないからこそ、一生続けていけると思うのです。生涯付き合えるものに出会えたことは、本当に幸せです。大学生のクセにおかしいですかね?(笑)
いろいろありますが、挙げるとすれば、振る舞いや佇まいでしょうか。国内には、東日本・西日本・東海というエリアごとの学生居合道連盟があります。東日本・西日本の学生は、試合での強さも秀でていますが、礼儀についても素晴らしいです。振る舞いや佇まいといった「居合道に対する姿勢」を彼らに習って、さらに磨いていきたいです。
ひとつのことに夢中になれる人、なりたい人が向いていると思います。それに応えてくれる奥深さが居合道にはあります。入部のきっかけは何でも構いません。私のように「日本刀に憧れていた」とか、「時代劇の殺陣が気になる」「好きな漫画から」など。何かに一生懸命に取り組みたい方、ぜひ一度、道場を覗いてみてください。
朝の清々しい空気感。道場に響く気合いの声。気付けば自然と背筋が伸びている取材でした。驚いたのは、試合の日程を尋ねていた時のこと。「今週末が全日本の大会です」。あまりに爽やかな表情でさらりと答えたので、ついそのまま流しそうになって「そんな大事な時にごめんなさい」と言うと、「大丈夫です」と高橋さん。伝わってきたのは、心の平静。高橋さんは謙遜していましたが、常に自分と向き合い、自らを客観的に見つめているからこそできる対応だと感じました。はるか昔、武士の精神を支えた居合道。愛知学院大学の学生たちに受け継がれ、育まれている尊い何かに、ほんの少しだけ触れることができた気がします。大事な時間に、貴重なお話を、本当にありがとうございました。